学生時代から海外に憧れ、オーストラリアやカナダで過ごした時間、そしてクルーズ客船で働いた経験を通して、たくさんの国や地域を訪れてきました。
旅先では美しい景色に出会い、その土地ならではの食や文化を楽しみ、多くの人と出会いました。
けれど、ある頃から少しずつ感じるようになったことがあります。
それは、
「見るだけの旅では物足りなくなってきた」
ということでした。
もちろん旅は楽しい。
新しい場所へ行くたびに発見があります。
でも、何度も同じ場所を訪れるうちに、その土地の季節や人々の暮らし、そこで営まれる仕事に興味を持つようになりました。
観光客として訪れるだけではなく、もう少し深く関われる方法はないだろうか。
そんなことを考えていたときに出会ったのが、能登ワインのオーナー制度でした。
能登ワインオーナー制度との出会い
私はもともとワインが好きです。
旅先でワイナリーを訪れることもありますし、地域の気候や土壌によって味わいが変わるワインの世界に魅力を感じていました。
そんな中で知ったのが、石川県能登半島にある能登ワインのオーナー制度です。
ワインオーナー制度という名前を聞いたとき、最初は「ワインがお得にもらえる仕組みかな?」くらいに思っていました。
しかし詳しく調べてみると、そうではありませんでした。
この制度は、ぶどう畑のオーナーとして栽培を応援しながら、その年に収穫されたぶどうから造られたワインを受け取ることができる仕組みです。
つまり、完成したワインを買うのではなく、そのワインが生まれるまでの一年に関わる制度なのです。
それがとても魅力的に感じました。
ワインは一年かけて育つ
普段、私たちはワインを一本の商品として購入します。
けれど実際には、その一本ができるまでに長い時間がかかっています。
冬には剪定が行われます。
春になると芽が出ます。
夏には強い日差しを浴びながら実が育ちます。
秋になると収穫が行われます。
その間には台風や豪雨、病害虫など、さまざまな自然条件があります。
農業は自然相手の仕事です。
思い通りにならないことも多くあります。
オーナー制度に参加してからは、能登の天気予報を見る機会が増えました。
ニュースで能登という言葉が出ると自然と目が止まります。
今年のぶどうはどうだろう。
順調に育っているだろうか。
そんなことを考えるようになりました。
不思議なことですが、参加する前には遠い場所だった能登が、少し身近な存在になったのです。
能登半島地震と能登への想い
2024年に発生した能登半島地震は、多くの人に衝撃を与えました。
私自身もニュースを見ながら心を痛めた一人です。
観光地として知っていた場所。
美しい海や里山の風景。
そこで暮らす人たち。
それらが大きな被害を受けたことに胸が締め付けられる思いでした。
オーナー制度は寄付ではありません。
復興支援だけを目的とした仕組みでもありません。
けれど、その土地とのつながりを持ち続けることができます。
応援したいと思う場所に関わり続けることができます。
私はそれがとても大切なことだと思っています。
災害の直後だけではなく、その先も。
一年後も、五年後も、その土地を気にかけ続けること。
オーナー制度には、そんな力があるように感じています。
届くのはワインだけではない
オーナー制度の特典としてワインを受け取ることができます。
もちろんそれも楽しみのひとつです。
けれど、実際に参加してみて感じたのは、届くのはワインだけではないということでした。
その土地の季節。
ぶどうの成長。
ワイナリーの取り組み。
生産者の想い。
そうした背景まで一緒に届いているような気がします。
スーパーやネットショップで購入するワインと違い、その一本には物語があります。
どんな天候だったのか。
どんな人たちが育てたのか。
そのことを知っているだけで、味わいも少し変わる気がします。
オーナー制度は「所有」ではなく「関わる」こと
オーナー制度という言葉を聞くと、何かを所有する仕組みだと思うかもしれません。
しかし実際に参加してみると、私が感じたのは所有感ではありませんでした。
むしろ、
「関わらせてもらっている」
という感覚です。
自分の畑があるわけではありません。
自由に収穫できるわけでもありません。
それでも、その土地のことを考える時間が増えます。
季節の移ろいを気にするようになります。
訪れたい理由が増えます。
オーナー制度の価値は、物を持つことではなく、場所との関係を持つことにあるのだと思います。
SATOMORIを始めた理由
現在私はSATOMORIというサイトで、全国のオーナー制度を紹介しています。
棚田オーナー。
ワインオーナー。
オリーブオーナー。
果樹オーナー。
さまざまな制度を調べていく中で気づいたのは、どの制度にも共通する魅力があるということでした。
それは、その土地とのつながりを持てることです。
現代は便利な時代です。
インターネットで何でも購入できます。
旅行も気軽にできます。
だからこそ、人は「関係性」を求めているのかもしれません。
ただ消費するだけではなく、少しだけ関わりたい。
応援したい。
見守りたい。
そんな気持ちが、オーナー制度には込められているように感じます。
また帰りたい場所が増えた
能登ワインオーナー制度に参加して感じたこと。
それは、「帰りたい場所」が増えたということです。
旅先はたくさんあります。
行ってみたい場所もたくさんあります。
けれど、もう一度訪れたい場所はそれほど多くありません。
オーナー制度は、その土地を「また帰りたい場所」に変えてくれる力があります。
ぶどうが育つ風景を見てみたい。
ワイナリーを訪れてみたい。
能登の季節を感じたい。
そう思う理由が生まれるのです。
私にとって能登ワインオーナー制度は、ワインを受け取るための制度ではありません。
能登という土地とつながり続けるための制度です。
そして、それこそがオーナー制度の本当の魅力なのではないかと思っています。

